



「私はストレスをまったく感じていない」「ストレスには強い性格だ」
と豪語する人であっても、普通に日常生活を送っているだけで、無意識のうちに相当のストレスを受けているはずなのです。
もちろん、こうしたストレスに対抗するための仕組みが、私たちの身体にも備わっています。副腎からはホルモンが活発に分泌され、ストレスに打ち克とうとしている、それが副腎皮質ホルモンのコルチゾール(ステロイドホルモン)で、このホルモンの原材料になっているのが、コレステロールなのです。
コレステロールと聞いただけで悪者扱いする人がますが、コレステロールは健康な身体を維持するのに不可欠なことは、述べた通り。コレステロールが「高い」ことは悪いことと強調されているようですが、コレステロールは低すぎてもいけません。
血中のコレステロール濃度が低いと、ステロイドホルモンがつくりにくくなり、ストレスに対抗するカが弱くなってしまいます。コレステロールは、適度な濃度を保たれていることが大切なのです。
このコルチゾールが働く際に欠かせないのがビタミンBです。そのため、ストレスを受けると、ビタミンBの消耗が顕著になります。
ビタミンB群の消耗に関しては、おもしろい実験があります。ボランティアの4人の大学生に、難しい数学の問題を解かせて、尿に排出きれるビタミンB群の量を測るというもの。つまり、一時的に過度なストレスを与えて、ビタミンB群がどれだけ消耗されるかを調べようとしたものである。さて、結果はどうなったでしょうか。
問題を解きはじめると、ビタミンB群の消費が増えます。
しかし、その後もずっと増えたままなのです。難問を解くというストレス状態から解放されたあとも、多量のビタミンB群が消費されているということは、何を意味するのか。つまり、ストレスが一度起こると、ビタミンB群の消費量は長期間続くということです。
さらに実験開始後、2日め、3日めに排出量が増えたあと、いったん休んで落ち着かせて、5日めに再度難しい問題を解かせると、また増えるのですが、今度は前よりも多くの量が消費されているのです!
一度消費してビタミンB群が不足した状態のまま、さらに消費が続くと、消費量が加速していくという悪循環になるのです。
このように、ストレスはその一時だけの問題ではないということになると、日常的に感じているストレスで、どれだけ多くのビタミンB群を消耗していることになるのでしょうか。
想像するだけでも怖くなります。
ストレスが原因でうつ症状が出る人は多いですが、ストレスがうつの真の原因だとしたら、そのストレスがなくなればうつは治るはず。しかし、実際にはストレスがなくなっても治らない。その意味が、この実験でも証明されたといっていいと思います。
さらに、脳の機能とビタミンB群との関係を象徴するエピソードは、歴史のなかにも残っています。
江戸時代にあった参勤交代という制度では、地方の大名が妻子を人質として江戸に住まわせることが義務付けられていましたが、江戸に住む妻子は、精製された白米を食べていました。当時、一般的な住民の主食はアワやヒエなどの雑穀が中心で、白米を食べられたということは、かなり優遇されていたことになります。
優遇されていたはずの大名の家族に、精神を病む人が続出したというのです。
不思議なことに、ひとたび江戸を離れれば治ってしまう。当時は江戸に滞在するときだけ発症するということで「江戸患い」と呼ばれました。
江戸患いの原因は単純です。
精製された白米には、胚芽などに含まれるビタミンBが不足していたため、脳の機能を落としてしまいました。それが脚気などの精神症状を起こしたというわけである。
こう見ていくと、時代が変わろうとも、人間の機能というのは変わらないことをつくづく実感します。
日々勉強にいそしんでいる受験生や、日常的にパソコン作業をする人、クリエイティブな仕事をしている人など、集中力を要する作業では、脳のエネルギーの消耗が激しいため、つねにビタミンB群が必要とされています。現代人の多くは、ビタミンB群が不足したままストレスにさらされているといってもいい状態なのです。